職人の技 さぬきひめ 豊嶋さん

キラキラ輝くお姫さま

香川オリジナルブランドのいちご『さぬきひめ』。平成17年に香川県農業試験場で開発された品種だ。味はもちろん、香り、食感、見た目まで、まさに「姫」という名前がピッタリ。
香川県農業協同組合の丸亀苺部会で、さぬきひめを生産している豊嶋さんにお話をうかがった。

出荷間際の日照が、果実の熟成に影響するといういちご。 取材前日に雨が降りその日の出荷量が少ない中、撮影用に赤く実ったものを、前日から摘み取らず残しておくなど、取材がしやすいよう様々なところで気を配ってくださった。

【取材2016年3月】

さぬきひめ
豊嶋さんのビニールハウスでキレイに色づいたさぬきひめ

-いちごを生産して何年くらいになりますか?
2000年から始めましたので、16年になりますね。最初はさちのかという品種を生産していました。さぬきひめが開発されてからは、さぬきひめのみ栽培しています。

-さぬきひめの特徴はどういうところですか?
ひとことで言うと、省エネ、収量が高い、おいしい。
さぬきひめは、さちのか、さがほのか、とちおとめといった品種の交配でできています。それらのいいとこ取りです。

省エネというのは、さぬきひめは低い温度に強いので、ハウスの暖房に使用している灯油や重油が少なくてすみます。 温度は1,2度低いだけですが、燃料の消費量は全然違ってきます。

-収量も良いのですか。
畑1反あたりの収穫高を反収(たんしゅう)といいますが、うちは1シーズンで反収6トンあります。 普通は反収2トン~4トンです。寒い地域は一生懸命作っても2トン。暖かい四国でも4トン。
初期投資にもお金をかけましたが、さぬきひめ自体が普通よりたくさん採れる品種なんです。

-初期投資といういのは?
例えばこの土の中。根っこの下にお湯が通っています。 ハウスの中は暖房をしていますが、さらにお湯で土も暖めています。いちごに寒くても春だと錯覚させます。 丸亀の農家さんは半分くらい導入していると思います。
その他にも、炭酸ガスが出る装置。葉っぱが光合成をするためには二酸化炭素が必要です。それを自然任せだけでなく、人工的に作り出しています。

さぬきひめ
黒いホースを通じて土の中にお湯が通る仕組み。豊嶋さんの後ろにあるのが、炭酸ガスが出る装置

-ビニールハウスも広いですね。
これも初期投資ですね。作業性を高めるために、お金はかかりますが(多棟ではなく)ワンフロアのハウスにしました。
さぬきひめは省エネでたくさん採れる。だから価格も低く抑えられます。設備にお金をかけるのは、この強みをさらに生かすための投資ですね。

さぬきひめ
ハウス内にはミツバチの巣箱がある。受粉しないとキレイな形のいちごができないそう

-しかも美味しいんですよね。
はい。さぬきひめは本当に美味しい品種です。全国的には福岡のあまおうや栃木のとちおとめがブランドとして有名ですが、味は決して負けていません。 食べ比べてもらうと、たぶん多くの人がさぬきひめの方がおいしいと言うと思います。人それぞれ好みはありますが、いちごのおいしさは糖度だけでなく、糖と酸のバランスです。さぬきひめはこのバランスが絶妙なんです。

さらに他の品種と比較して4月5月でも糖度が落ちないのも特徴です。
いちごが一番美味しい時期は12月から1月2月なんですよ。 冬は温度が低く日照時間も短いので、花が咲いてから実が赤くなるまで、だいたい45日ほどかかります。なかなか赤くなりません。 成長に時間がかかるから、それだけ甘さが濃縮される。糖度がぎゅっとなるんです。 3月以降暖かくなると約30日で赤くなります。その分寒い冬より糖度が落ちます。 でもさぬきひめはその落ち幅が少ない。春以降でもじゅうぶん甘いです。

さぬきひめ
艶やかで黄金のように輝く、収穫されたばかりのさぬきひめ

-収穫はいつごろまでできるんですか?
暖かくなるとだんだんと糖度が落ちます。6月でもいちごは実りますが、私の所は5月末でやめます。 暑くなると病気と虫の問題も増えてきますし。
その後は一度全部刈り取って、ひとつひとつ苗を植えていく作業をします。ここ全部で1万2千株あります。 苗を育てる専用のハウスが別にあって、今も収穫しながら同時進行で育てています。 そこに600株、1株から蔓(つる)が20本くらい出るので、その蔓から来年用の苗を取ります。

-種を植えて育てるのではないのですか?
いちごって種を取って育てると、さぬきひめの種なのにさぬきひめができない場合があるんですよ。さちのかができたりする。
不思議でしょ。元の品種に戻ろうとする。先祖返りが起こってしまうんです。
だから株から伸びてきた蔓からとって苗を育てます。差し苗です。
それでも元の品種が出てくることがある。これ、どう考えてもさちのかやなあ。さぬきひめでないというのはすぐわかります。
いちごは品種の入れ替わりが激しくて一つの品種が10年周期で変わるんですが、これだけ優秀ないちごを追い越す品種はなかなかないでしょうね。

さぬきひめ
蔓。左手に持ってる部分を切り取って苗にする

-出荷先は?
出荷先は香川県と関西ですね。 県内は早ければ翌日、遅くても翌々日には店に並びます。九州産だと香川県内の店頭までには早くても3日かかるので、鮮度がイマイチ。やっぱり地産地消がいいですね。

さぬきひめ
畑の隣にある出荷場。奥さん(左)と息子さん、パートさんの4人で選果・パック詰め作業

-ここでサイズごとに分けてパック詰めするんですね。
そうです。 いちごは最初の実が大きくて、次の実は必ずそれより小さくなる。だんだん小さくなります。いくら間引きしても、絶対それ以上は大きくならない。 12月に採れるいちごが一番甘くて大きいんです。
昨日雨が降って日差しがなかったので今日は量が少ないですが、いつもはこの5倍くらいあります。
それに天気が良い日の翌日は、黄金のように輝いた実になります。 今日はいつもより少し白っぽいかな。でも白くても甘いですよ。これもさぬきひめの特徴。
逆に真っ赤になりすぎると抜けたような味になります。 店頭に並ぶと消費者は赤い方を選びますが、さぬきひめは白くても糖度は変わらずに、酸味があって美味しいです。

さぬきひめ
熟してない緑色の小さいいちごも普通は食べないが、りんごのような爽やか酸味でジューシー

安心安全な美味しいいちごを提供したい。という思いで育てています。
完全に無農薬というのは難しいですが、農薬の代わりに悪いダニを捕食する天敵を放したり、漢方薬を散布するなど工夫しています。 葉っぱまで色つやがいいでしょ。そうやって手をかけてやると、根がしっかり張って美味しいいちごができる。 消費者にはわからないところまで気を遣って作っています。
植えて放っておいたら実がなって、収穫するだけの簡単な仕事じゃないですよ。 農業を知らない知り合いからは、「いちご摘み取ったら金になるんやけん、ええ仕事やの~。」って冗談言われますが(笑)
オフシーズンは苗を育てますし、年中無休。1年中休みはほとんど取れない大変な仕事です。

さぬきひめ
自分の育てたさぬきひめには自信と誇りがある

香川県のいちご生産量は、さぬきひめが70%、女峰が20%、さちのかが5%、残りは紅ほっぺとかとちおとめなど。どの品種を選ぶかは農家さんの好みになる。

紅ほっぺ
丸亀苺部会長の江戸さんが育てているのは紅ほっぺという品種

紅ほっぺ
紅ほっぺは静岡産。酸味があり、いちご大福にピッタリだそう

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