職人の技 丸龍ハッサク 佐藤さん

ずーっと冷やされ、もーっと美味しくなる

丸亀市綾歌町大原地区は県内一のハッサク生産地だ。ブランド名は「丸龍ハッサク」。

佐藤さんのハッサク園を訪れたのは1月。ハッサクの収穫は12月でほぼ終わっており、取材時は果実が木にほとんど残っていない状態だった。しかし香川県内のスーパー店頭に、佐藤さんが生産したハッサクはまだ並んでいない。出荷が始まるのは3月中旬以降だという。
そのワケは"追熟"。美味しい丸龍ハッサクが消費者の手に渡るまでに、収穫後も2ヶ月以上の時間と手間をかけていた。

【取材2018年1月】

丸龍ハッサク
収穫直前の丸龍ハッサク

-丸龍の名前の由来を聞かせてください。
ここ大原地区と綾川町綾南との境に龍王山という山があります。
龍王山という名前の山は日本全国たくさんあって、農業では欠かせない水の神様である龍神をまつっています。 その龍王山の龍の字をもらって、名前をつけました。

丸龍ハッサク
龍に○のロゴマーク。この段ボールケースに入れて出荷される。

-昔からハッサク栽培が盛んだったのですか?
このあたりは元々、タバコや米が基幹産業でした。
大原地区でハッサク栽培が始まったのが、私が中学生のときくらいかなあ。親父が始めたのが高校生くらいなので、東京オリンピックの頃(昭和39年)です。
当時はハッサクが珍しくてよく売れましたよ。タバコや米をやめて、皆ハッサクや桃を主に作るようになりました。昭和45年から50年にかけてですね。夏は桃、冬はハッサクを収穫していました。
最盛期は大原地区で30軒近くハッサク農家がありましたから。

-今は少なくなったのですか。
だんだん減ってきて今11軒です。全体で300トンあった出荷量は現在100トン、三分の一になってしまいました。
量は減りましたが、出荷するときは丸龍の出荷組合で規定を作って品質を高く保ち、皆でブランドを損なわないよう気をつけています。大きさや傷などを見て、しっかり選別しています。

丸龍ハッサク
大きさの規格はSから3Lまで。中間のLサイズが味は一番良いそうだ。

-丸龍ハッサクの特徴は何ですか?
他の産地では収穫後、間もなく出荷します。今県内のスーパーで売っているハッサクは他県のものです。 丸龍はまだ出荷しません。同じ時期に出荷するよりも、時期をずらすことで有利販売に結びつける狙いがあります。
でも収穫時期を遅らせることは難しいんです。1月になると寒さで凍害の恐れがあるので。 丸龍ハッサクも他と同様12月に収穫をほぼ終わらせます。 それを冷蔵庫でしばらく寝かせることによって、出荷を遅らせています。

丸龍ハッサク
冷蔵庫に入れる前、予措(よそ)の状態。だんだん熟して緑色が消えてくる。手前側が収穫後間もないので緑色が多い。

-出荷までずっと冷蔵庫に入れて大丈夫なのですか?
それが寝かせると美味しくなるんです。甘くなります。正確に言うと、糖度は変わらないけど酸味が抜けて少なくなるので甘く感じるようになります。これを追熟と言います。

貯蔵するので痛むリスクもありますよ。傷んだものは撥ねて出荷しません。
水分を飛ばさないようにするのが貯蔵のポイントです。
温度は5℃、湿度は85%が基準。普通の冷蔵庫では、85%まで湿度を上げるのは難しいですね。うちは加湿器を付けています。 湿度を保つことで痛みを最小限に防ぎます。
ちゃんと管理していれば夏になっても美味しく食べられますよ。 夏は出荷してから運送中に高温で痛むので、市場への出荷は5月いっぱいくらいまでですが、家では10月まで食べてます。
暑くなってから、冷やして食べるハッサクは最高ですよ(笑)夏休み孫や親戚の子供に出したら、とても喜びます。

丸龍ハッサク
自宅の冷蔵庫の中。現在はまだ運転されていない。この中にぎっしりコンテナが積み上げられる。

-年間のサイクルを聞かせてください。
12月に収穫したら、1月中は冷蔵庫ではなく倉庫で予措(よそ)します。このときは冷やしません。 2月に冷蔵庫に入れて、3月中旬から出荷が始まります。それが5月頃まで。
それと同時に1月から5月くらいまでは枝の剪定もします。一つ一つの実が大きくなるように余分な枝を切ります。ハッサクはどこに花が付くか分からないから、剪定が特に難しい。感覚や経験によるところが大きいです。
5月に一つの枝に一つの実ができるように摘花します。ミカンは一つの枝にたくさんの実が付いても大丈夫なのですが、ハッサクは複数の実がなると、くっついているところから虫が入ったり色が付かなかったりするので。
それ以外にも病気や虫が来ないように、薬剤散布は3月から収穫前まで長い期間にわたってしなければなりません。
美味しい実がなるまでの作業は大変です。夏の間も手間がかかります。

丸龍ハッサク
12月の収穫の様子

丸龍ハッサク
ハッサクは苦みがあるイメージだが、丸龍ハッサクはほとんど苦みがなく食べやすいので、子供にも好評だそう。

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