職人の技 丸亀うちわ 三谷順子さん

伝統の技とモダンセンスの融合。全国から注目を集めるうちわ職人。

伝統的な丸亀うちわ作りは47もの工程があり、地道な手作業が要される。三谷さんはその昔ながらの製法を受け継ぐ数少ない職人の一人。伝統の技に新しい作風が吹き込まれた作品は、これまで数々の賞を受賞し日本全国から注文が殺到している。いま最も注目を集める三谷さんに、うちわ作りにかける想いを聞いた。

【取材2013年7月】

-どうしてうちわ作りを。
実家は大阪ですが、父親の仕事の関係で丸亀で育ちました。高校卒業後は大阪で就職。結婚を機に再び丸亀で暮らすことになり、縁があったんですね。丸亀市が実施する「丸亀うちわ後継者育成講座」の募集を見て、無料だし、やってみようかなと。第1期生として学びました。
うちわ作りは全くの未経験でしたが、草木染めをしたり押し花をしたり、『作る』ことは前々から好きでしたし、「せっかく丸亀にいるんだから」という思いもありました。

三谷さん
自宅に併設している工房

-後継者育成講座とは。
近年、ポリうちわや中国製の竹うちわが多く流通し、伝統の技で竹製うちわを作る職人さんは数えるほどになりました。そこで後継者育成を目指すため、1999年に講座がスタートしました。県伝統工芸士の指導のもと、竹をうちわの形にしていく骨作りや地紙の貼り付けを14日間で学ぶものです。

-本格的にしていこうと思ったのは?
2週間という短い期間でしたが、講座を受けてみるとおもしろくて。もっと学びたい人は継続して1年間「うちわの港ミュージアム」におられる伝統工芸士に教えてもらえることができました。毎日のように通いましたね。あまりにもしつこく質問をするので、骨の第1人者である冨羽昇三朗先生が「そんなにしたいなら家に来てもいい」と声をかけてくれ、修業させてもらいました。貼りの第1人者である早川喜美子先生のもとでも教えていただきました。

-お二人から一番学んだことは。
冨羽先生からは「早い作業でいいものを作ること。数をこなし手間を惜しまず」、早川先生からは「買う人の身になり、手に取って見てもらえるものを」ということを教えてもらいました。とても難しかったですね。でも、難しかったからできたんでしょうね。

-「うちわ工房 竹」の立ち上げメンバーなんですね。
2001年講座受講生が運営する「うちわ工房 竹」をオープンさせました。観光客向けに実演をしながら土産品となる竹うちわを制作しています。自分が作ったものを買ってくれる―。とても励みになると同時に、お客さんの好みがよく分かる機会で勉強になるんです。でも、手に取っていたものを置きなおすのを見ると、なかなかショックなんですよ。
昔のうちわって、バランスもよく形もいい。万能好みによくできているんです。そうした伝統の技術を大切にしながら、現代のニーズを考えていかなければと。優しさと気品あふれるデザインで自分らしさを表現していこうと思いました。

-2005年全国伝統的工芸品公募展で、生活賞を受賞されてますよね。
丸亀に江戸時代から伝わる丸金印入りの赤褐色系の渋うちわを基本に、現代風にした『小判色和紙渋うちわ』です。赤、青、緑、黄、橙といった無地の色和紙の色をそのまま表現し、渋を塗って仕上げるイメージで作りました。私にとっては感慨深い作品です。

三谷さん

-色和紙の色を出すのが難しかったようですね。
最初は渋を塗ると、和紙が黒ずんだようになってしまったんです。和紙の色を出したつもりなのに数日経つと黒色になってしまい、それがそのまま雑誌に掲載されてしまった、なんてこともありました。
うちわ
そんな失敗をもとに研究を重ね、“和紙に浸透しないように、のりで膜を作って渋を塗る”という方法にたどり着きました。鮮やかな色和紙でモダンに、無地でシンプルに、渋で光沢を出すことで、和紙そのものの良さを引き出すことができたと思います。

-渋うちわの生産は減っているとか。
とても手間がかかるんです。渋を塗る作業がある上に、乾かす作業では天候にも気を使わなければならない。制作される方は少ないですね。

-地元の竹を使用しているんですね。
最近は、中国製の竹を使用した商品がたくさん流通していることもあり、せっかく作るならと。あくまでも『丸亀うちわ』にこだわりたいですね。作業が落ち着いた秋頃から軽トラを自ら運転して近隣の山へ出向きます。成長の具合や節の形など、竹を見極めて持ち帰ります。
うちわ

-新しいチャレンジも色々とされていますよね。
「デザイン創造工房「めがね」代表のデザイナー八木沼修氏とコラボレーションした作品2つを作りました。うちわの骨を使ったインテリア照明『SASARA』や、穂の部分を少し左に傾け風を楽に感じられるように工夫したうちわ『Ojigi』では、2010年グッドデザイン賞 特別賞/中小企業庁長官賞を受賞しました。 私のオリジナルでは、藍染やしじら織りを用いて、風流で和の趣を醸しだしたうちわなどを作っています。いろんな素材を使って、デザインや形を好きなように作れるのは、一人で作業しているからですね。とても楽しませてもらっています。

-全国各地から製作依頼があるそうですね。
九州や東京、いろんな方面から注文をいただいています。今年は香川県から依頼を受け、春夏秋と瀬戸内海の島々をメイン会場に開催している瀬戸内国際芸術祭のお土産品として販売するうちわを含め、既に4000本以上作りました。今回は、讃岐の絵柄がプリントされた手ぬぐいを貼っており、涼しそうな作品になっています。

うちわ

-4000本!気が遠くなりそうな数ですね。
それが、作っても作っても面白いんです。 いい骨ができると貼りも楽でいい作品になる。だから骨作りは一番重要ですね。そうは分かっていても、全てが同じようにはならない。でも、それが手作りの良さなのかなと、一つ一つ丁寧に作らせてもらっています。

-今後の抱負を教えてください。
今はなかなか時間がとれませんが、新たな作品作りをしていきたいですね。草木染めや押し花、藍染などの経験を生かし、時代に応じた作品を作っていきたいと思います。うちわの用途だけではなく、インテリア品としても使ってもらえるように。 またうちわ作りをがんばっている若い人たちに技術の伝承をしていきたいと思っています。

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