生産農家わずか1軒~豊臣秀吉ゆかりの名産品~
香川本鷹は一般的な鷹の爪と比べると大きさは2~3倍で7~8センチある。豊かな香りと風味、辛み、うま味のある逸品。日本の唐辛子の中では最高品種といわれ、香川県最古の農産物の1つとされている。中世・戦国時代から昭和の中頃まで塩飽諸島で盛んに栽培していた。
古くから良質の船乗りを多くだし、戦国時代には塩飽(しわく)水軍の拠点として栄えた塩飽諸島。豊臣秀吉の朝鮮出兵に加わった塩飽水軍が戦利品として拝領されたのが香川本鷹と伝えられている。しかしながら安価な輸入品に押され、いつの日か島の畑から姿を消してしまった。人々は『幻のトウガラシ』と呼び、その風景を懐かしんだ。
平成18年に始まった「香川本鷹復活プロジェクト」に参画、丸亀では唯一の生産農家として、塩飽諸島の1つ丸亀手島で、高田さんが作っている。
【取材2014年1月】
伝承の地・塩飽で作られる幻のトウガラシ
-香川本鷹の栽培を復活させた思いについて教えてください
塩飽諸島で本鷹栽培が途絶えてから約30年になるかなあ。平成18年に、伝統食材の栽培をもう一度復活させたいと、香川県、丸亀市、JA香川などが連携して栽培農家を募っていたんです。それを聞いたときに「塩飽に伝わるせっかくの名産品」と思ったことがきっかけ。全国の人に知ってもらいたいと思ったし、少しだけならできるかなと。島の活性化にもつながればと思いました。
-手島について
塩飽諸島の1つの島です。丸亀市から北へ約21キロの沖合にあります。住所は丸亀市手島町。けっこう遠いですよ。丸亀港からフェリーで1時間半、旅客船で1時間かかりますからね。夏になると、海水浴やキャンプをしに来る人はけっこういるけれど、それ以外はなかなか来られる方少ないですねえ。丸亀市と結ぶ船は一日3便です。周囲約10キロ、人口約40人、ほとんどが70才以上の高齢者なんです。昔も今も島の産業は漁業と農業が主で、港周辺の集落以外は手つかずの自然がそのままです。塩飽大工が作った100年近くの家もたくさん残っていて、町歩きも楽しいですよ。人の出入りが少ない、静かで穏やかな場所です。僕は生まれてからずっとここに住んでいます。
-丸亀市で香川本鷹を生産しているのは高田さんだけ?
本鷹の復活栽培は、本島や広島などを含め8件で始まったのですが、夏の過酷な作業や高齢化で、今はうちだけとなりました。香川県でも数件だけです。
-本鷹栽培に適した場所と聞きましたが
少雨で傾斜地が多く、水はけのよい土地柄が合っているんでしょうね。本鷹畑は、港から徒歩で約10分の西浦海岸を見渡せる少し高い場所にあります。
-(本鷹畑に到着)たくさんの唐辛子がなっていますね
今年の出来も上々やね。12アールの畑に作付けしました。乾燥重量にすると300キロ。初年度の試験栽培では100キロから始めたので、7年間で順調に増えましたね。ほら、これを見てください。香川本鷹は空へ向いて実がなっているのが特徴なんです。
鮮やかな赤色にするためには、おひさまの力が必要
-栽培について教えてください
本鷹はその年の収穫が終わったらすべての株を抜いてしまうんですよ。翌年の収穫分は全て改めて株を植えることから始めます。収穫は遅くて11月頃終わり、翌年の2月の終わり頃から新しい苗作りがスタート。7~10センチになったら5月に畑に植え替えます。8月半ばになってくると1メートルの高さに成長します。7月中旬を過ぎると白い花が咲き始めますよ。かわいらしい小さな花がたくさん。花が終わると実が少しずつ大きくなっていきます。サヤの色は緑から朱色になり、鮮やかな赤色になったら収穫となります。
-栽培で一番大切なことは何ですか
全てだけど、難しいのは水の量の加減。水分が多いと大きくなるけど辛みが出ないし、水分が少ないと辛みが出過ぎるし。天候によって水加減を考えないといけない。5~8月は一番気を遣い、一番手をかける時期ですね。
なかなか手がかかります
-収穫が大変そうですね
想像以上に大変なのが収穫作業。ひとつひとつ手摘みで、ヘタがくっつかないように上手にもぎ取る。ヘタがくっついてしまうと、取るのがまた大変で。本鷹は枝分かれしながら順々に実がなっていくんです。8月~11月にかけて長い間収穫できるんだけど、日照時間が多いほど鮮やかな赤色になるから、日差しのある時期にどれだけ収穫できるかが勝負。収穫後はひとつひとつ選別していきます。
-どのように選別しているのですか
大きさ、色、形、無農薬のため虫食いなどもひとつひとつ確かめながら、A~C級品に選別します。その後約60時間かけて水分15%くらいまでに乾燥機で乾燥させます。かつては天日干ししていましたが、雨や湿気など、天候によって乾きづらい時が多いので、確実にきれいにでき上がる機械を利用しています。すべての作業…なかなか手がかかります
-大量の本鷹に囲まれていると、辛味を体に感じると聞きました
本鷹に囲まれていると、初めての方はとても感じると思います。ずっといると、くしゃみや鼻水、咳、涙が出て、しんどかったこともありますね。私たちはもうだいぶん慣れましたけど。本鷹を触った手で目をこすったりすると大変なことになりますよ(笑)。
-この本鷹を使って、丸亀のお土産品を作らせていただきます
それはとてもうれしい!!生産者にとっては、この本鷹を利用してくれるところがあると思うと元気になれます。やりがいも感じますしね。名産にふさわしい゛いいもの゛をつくっていかなくては。島の貴重な財産を大切にしていきたいと思っています。