お日さん大好き・飯南の桃
香川県の桃の生産量は全国第9位、隠れた特産品である。その中心となっているのが丸亀市飯山町。『飯南の桃』のブランド名で約170戸の農家が100ヘクタールほどを栽培、約700トンを収穫している。
収穫最盛期の7月、讃岐富士の名称で知られる飯野山の東にある、建石さんの桃農園を訪ねた。
農園に入ると、さわやかな甘い香りが広がる。
取材したちょうどこの日が「あかつき」という飯南の桃の中で代表的な品種の収穫初日。
これから約1週間くらいが、あかつきの収穫期にあたるそうだ。
袋に包まれた桃の状態を一個一個確認しながら、きれいに色づいた桃を吟味して収穫中の建石さん。
非常に忙しい日にお邪魔したにもかかわらず、終始にこやかな表情で親切丁寧に取材に応じてくれた。
【取材2014年7月】
- どんな基準で収穫する桃を選んでるのですか?
収穫して5日目頃までに、お客さんがおいしく食べられるのを目安にしてます。
桃は足がはやい(痛むのが早い)ですが、あまり早くちぎると糖度が乗ってない。
収穫前の今の時期は、晴れて太陽の光が照ってると1日で糖度が0.5位上がるから、お日さんに当ててあげた方が甘くなるんです。
だけど桃は熟れたら木から落下します。落ちたら当然商品価値が無くなります。
いつ収穫したら最適か、今日か明日か、その見極めが大変。長年やってても、お天道様が相手なので難しいです。
- 天気予報と毎日にらめっこですね。
一番気になるのは台風かな。枝が折れたら実もダメになる。
収穫したものを、糖度、堅さ、形、大きさ、色合い、いろいろな面から選果します。
例えば形だと、円に近いものが良い。
また、光センサーで糖度だけでなく硬度も測れる機械を、農協が導入しました。
この選果機は、中の種が割れているかどうか、(成長の段階で栄養の急激な変化によって種が割れ、空洞になっていると品質が悪い。)それも光センサーで一瞬でわかります。
桃1個1個を、全部選別していきます。
そういった基準でランク分けしてから、箱詰めして市場に出ていきます。
形がきれいで糖度が13度以上だと特選、贈答用などに高額で販売されますね。平均糖度は12度以上が目安かな。
- 桃にかぶせている袋の色が違いますね。
「あかつき」は二重袋をします。二重袋をすると、きめの細かい品位のある見た目で、おいしそうな桃が出来上がります。
内袋をすると色つきが良くなって、肌がやわらかくできる。それに外袋をすると紅がさしてくる。
「なつっこ」は逆に二重袋をすると、色が付きすぎて黒くなるんです。
品種によって使う袋を変えています。
- 年間の作業について聞かせてください。
桃の生育の中で「うったて」(始まり)は収穫が終わったときです。終わってすぐに来年の準備をします。
桃の木の疲労回復を早くしてやるお礼肥(おれいごえ)が、来年の桃の最初の仕事です。
- お礼肥とは?
桃を収穫した後の、消耗した木を回復させてやることです。
収穫の「お礼」の意味を込め、速効のすぐ効く肥やしと水をやります。
次は9月の剪定。いい桃がなる枝を邪魔している枝を取り除いてやる。
冬の12月から1月にかけても剪定します。
2~3月に摘蕾(てきらい)、枝に1個か2個だけ桃がなるように余分な蕾を取ると、その1個がおいしい桃になります。
4月に花が咲き終わって、5月の中頃に桃の実がゴルフボールくらいになると、袋かけをします。
でもやっぱり一番しんどいのは夏の暑さの中での作業ですね。
- 地面に敷いてあるシートは太陽を反射させるためですか?
そう、桃は実も葉もお日さん大好き。しっかり日を当ててやります。
雨が少なくて日ざしが多いと、品質の良い桃になります。雨が少なければ水をかけてやるといいが、雨が多いのは我々の力ではどうしようもない。
うちの農園では、木と木との間隔を普通の2倍とってます。できるだけ重ならないよう、太陽にしっかりたくさんあたるようにして、
1本の木にたくさん実がなるようにしてます。そのほうが生育が早く良い桃ができます。
桃栗三年柿八年というように、桃の木は3年したらぼちぼち実がなり始めて、5,6年したら成木になります。15年から20年で木の一生が終わります。
- 飯山が桃の産地になったのはなぜですか?
明治時代、飯山町坂本地区の大地主であり、貴族議員でもあった宮井茂九郎さんという方が、何かこの土地に適した農作物はないかと、土壌や気候を専門家に調べさせました。
桃が向いています、という報告を受け、広島から桃を作っていた人を技術者として移住させたのが始まりのようです。
- 先ほどのお話にあったように、雨が少なくて日ざしが多いことが良かったのですか?
そうですね。
それと、花崗土。桃の木は酸性土壌が好きなんです。pH(ピーエイチ/ペーハー)でいうと6くらいが生育に適しています。
白桃で有名な岡山の桃は全て、花崗土の山で栽培されています。
ここの土は花崗土ではないので、花崗土を入れてます。2,3年に1度は土壌診断、土を取って分析して状態を調べています。
- 私たち消費者がスーパーで良い桃を選ぶ見分け方はありますか?
桃は触ると傷むから、触ってると怒られるけど(笑)、
持つとズシッとして、おしりにヘタが付いてるものが正常。ヘタが付いてないものは糖度が乗っていません。
それから、産地の天候をみて買うのもいい。例えば山梨産の桃だと、山梨の最近の天気は晴れが多いとか雨が多いとか。
天気が良いことが、おいしい桃ができる条件なんです。収穫前の1週間か10日が勝負となります。
今年の丸亀は雨が少ない。特に数日続くような大きな雨がないので、糖度が高くものすごくおいしい桃ができてます。
飯南の桃は九州市場を中心に出荷されています。
遠くへ運ぶと運賃がかかるので、運賃の要らないようにするには県内販売を増やすのが一番。
地元の直売所でとりたての桃の販売をしたり、『桃喰うまつり』というイベントを毎年開催するなどして、地産地消に努めてます。
『桃喰うまつり』のときに、桃を切って子供たちに食べさせてもらってますが、「おいしい桃を食べさせてあげてよ」と私は言っています。
子供の時においしい桃を食べた子は、一生桃を好きになるんですよ。
- 桃農家をやっていて一番嬉しいことは?
食べた人に「おいしかったなぁ!」って言ってもらえるのが一番の喜びやね。
あとは、たくさん売り上げがあったときかな(笑)。